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[全文掲載]地方創生カレッジ:地方創生リーダーの人材育成・普及事業(5)

2019.12.16

地方創生カレッジ:地方創生リーダーの人材育成・普及事業

(日本生産性本部茗谷倶楽部会報第77号寄稿文)

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三輪知生(経営塾2期)

5.制約条件の解消のための方策

天然資源や食料物資の大半を輸入に頼るわが国は、付加価値の高い商品やサービスを開発し、海外市場で販売することで外貨を獲得していかなければ、安定的な経済発展を続けていくことは困難です。完成品メーカーが量産工場の多くを海外に移転し、かつて最大の強みであったモノづくりの現場力が減衰せざるを得ない状況に置かれている今日において、新たな価値を生み出すイノベーションの創出は、わが国にとって危急の課題といえるでしょう。こうした厳しい実情を鑑み、国は地方創生と合わせて、起業創業への公的支援策も充実させてきました。

しかしながら、期待した未来予想図通りには推移していないと指摘されています。中小企業白書によれば、個人事業主として開業した人の約4割が1年以内、約半数が2年で廃業してしまい、10年後に生き残る事業者はたった1割だけなのです。それは、新たな価値を生み出すイノベーションを実現する前段に、(前述とはさらに別の)三つの壁が大きく存在していることによります。さらには数値目標として創業者数を追ってしまい、事業の競争優位性や独自性の確立に深く関与しないが故の、公的支援機関の機能限界がそこにあるともいえましょう。

新たな価値を生み出すイノベーション創出の前段に立ちはだかる一つ目の壁は、科学的に立証できるのか、本当に実現可能なのか、といった次元の「現実の壁」です。人は夢や理想を実現しようと新たな事業を構想しますが、残念ながら妄想に終わってしまうケースも多々あります。メディアや大衆だけでなく、専門家や学識経験者ですらも情緒的な判断に流されてしまったり、既存の事業や組織を存続させることを目的として、無理筋の新事業案が補助金受給の募集にエントリーされ、採択に至る事案も散見されるのが公的支援の実態であったりします。

2つ目の壁は、事業の実現性が一定の確証を得たうえで直面する「資金の壁」です。先進性や独自性が見込まれる技術開発型案件にはNEDOの開発援助など公的な補助金、助成金が比較的容易に獲得できるよう設計されていますが、対象や用途が限定されます。また、民間の金融機関は新事業へのデューデリジェンス(事業や財務の査定)が困難であること、ベンチャーキャピタルは短期でキャピタルゲインを求める性格であることが、利用者にとって不都合な場合もあります。また、話題のクラウドファンディングは市場が未成熟で機能は限定的です。

3つ目の壁は、新たな商品やサービスの販売準備が整ったうえで直面する「市場の壁」です。いくら新規性を誇っても、全く世の中にないものでは人々に認知されず、売ることは困難です。また、たとえ競争優位性を誇っていても、購入者が許容できる範囲の価格でないと売れません。そして、販売を他者に依存していると、売るのは最も困難となります。作り手自身が情熱をもって販売にあたることで、消費行動を誘発するのが市場の壁を突破する鍵となるのです。しかしながら、公的支援の場面において市場の壁への配慮は希薄といわざるを得ません。

科学的な証明や経済合理性に適合しない、市場原理や外部環境の変化に適応しない商品やサービスは、やがて淘汰されるのが自然の摂理です。公的支援の場面において、その原理原則を逸脱してもなお、事業が成功する保証(あるいは補償)はありません。真の地方創生を実践していくためには競争原理と新陳代謝を大前提として、情熱と心血を注いで事業を軌道に乗せることが求められます。また、民間の企業人の視点として自明の理であることを、公的機関の意思決定のプロセスに丁寧に転写していくことが、最初にして最大の必須要件となるのです。

(6)へ続く