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[連載記事]生産性新聞 19.02.25「地方創生の現場から」(6)

2019.02.25

地方創生の現場から(6)

〜岐阜県の事例・経営コンサルタントの視点〜

東海クロスメディア 代表取締役 三輪知生

地域連携DMOのモデルケース

〜長良川DMOによる地域活性化の取り組み〜

鵜飼をはじめとして四季折々に風光明媚な流域の情景が印象的で、歌謡曲のタイトルにも度々登場する岐阜の長良川は、四万十川(高知県)、柿田川(静岡県)とともに日本三大清流と呼ばれています。上流域にダムが一つも存在しないことから、清らかでミネラル分を豊富に含む水が淀みなく流れ、名水百選の一つに選定されている中流域の岐阜市付近では、地下に浸透している伏流水が汲み上げられ、良質な上水道として供給されています。

今のように鉄道や道路が整備されるまで、長良川は主に木材運搬の場面で貴重な流通手段として用いられ、郡上、関、美濃、岐阜といった流域4市では林業、刃物、和紙、提灯などの産業が発展して商人が往来し、それらの担い手とともに湊町や材木町といった地名が現代に根づいています。岐阜市内では織田信長が造営した岐阜城を頂に据える金華山の麓を流れ、右岸からの眺めは長良川流域を象徴する最良のビュースポットとして有名です。

このように豊かな自然の恵みに囲まれた岐阜市ですが、1300年の歴史を誇る鵜飼の観光客数は近年減少傾向にあるのです。観覧船の年間乗船客数は1973(昭和48)年に33万7千人を記録しましたが、温泉地と同じく団体旅行が減少したことや、娯楽やライフスタイルが多様化してきたこともあって、直近では年間11万人前後にまで落ち込んでしまっています。市は毎年2億円もの税金を投入し、慢性的な赤字体質となっています。

この状況を打破するためには、従前のしくみを抜本的に改革する必要がありますが、今回は地方創生カレッジ「国内外のDMOから学ぶ」(事業構想大学院大学・大社充客員教授)にある、長良川DMOを紹介しましょう。

 

若い力と柔軟な発想で地域の魅力を発信

 

長良川DMOは郡上、関、美濃、岐阜の長良川上流から中流の4市をカバーする地域連携DMOとして、2016(平成28)年に登録されました。その母体となったのはNPO法人ORGANで、長良川流域の観光コンテンツを地域の若い人々とともに開発してテストマーケティングするイベント企画「長良川おんぱく(温泉博覧会)」の開催や、地域商社として機能する「長良川デパート」を展開してきた民間の若手起業家によるものです。

他に登録されているDMOを見てみると、主に従来からある観光協会などの社団法人や財団法人を母体としています。一方で長良川DMOは、長良川流域をブランディングすることで自分の住む街に誇りを持ち、アイデンティティを確立したいとの熱い想いを持つ蒲勇介代表理事(39歳)に共感して集まった、地元の若い人々を核に構成されていることが特徴です。従来の枠組みに囚われない、柔軟な発想で地域の魅力を発掘し続けています。

長良川上流域の郡上市出身の蒲勇介代表理事は九州大学芸術工学部を卒業後に岐阜に戻り、別のNPO法人の設立に関わり副代表として地元での活動をスタートしました。生まれ育った長良川流域が、豊かで美しい自然やそこで培われた歴史と文化、そして伝統産業が誇ってしかるべきものであるのに、観光まちづくりのプラットフォームがないことや地域ブランドが確立されていないことを痛感し、NPO法人ORGANを設立したのでした。

その後の活躍は目覚ましく、「長良川おんぱく」を全国に数ある「おんぱく」イベントの中でも最大規模にまで育て上げました。また、全国出荷の7割を生産しながらも知名度が低く、誰も目を向けなくなっていた和傘に着目し、若い担い手とともにその魅力を発信して年間約1千万円の売り上げを誇るまで見事に復活させました。マーケティング力を発揮したこの先は、事業の収益性を十分に確保し、マネジメント力を拡充することが課題です。

(おわり)