News

ニュース

[連載記事]生産性新聞 19.02.15「地方創生の現場から」(5)

2019.02.15

地方創生の現場から(5)

〜岐阜県の事例・経営コンサルタントの視点〜

東海クロスメディア 代表取締役 三輪知生

 

地方公共団体職員のモデルケース

~ 下呂市観光課での過疎地域の取り組み ~

草津温泉(群馬県)、有馬温泉(兵庫県)とともに室町時代から「日本三名泉」と称される岐阜県の下呂温泉は、平安時代の中頃には発見されていたとされ、1000年以上の歴史を誇る温泉地です。その歴史を紐解くと、自然災害(地震や川の氾濫など)によって度々源泉が失われたものの、中部の財界人による源泉再掘と鉄道(高山線)の延伸によって、近代発展史が昭和の幕開けとともに始まり、名古屋の奥座敷としての地位を盤石なものとしました。

最盛期には年間180万人が宿泊して賑わっていた下呂温泉もバブル崩壊後には次第に観光客が減り続け、平成22年には年間100万人を割り込み、東日本大震災や御嶽山噴火の影響もあって危機的な事態に直面しました。国内における他の温泉地と共通した観光産業を取り巻く環境の変化としては、大型の観光バスで乗り付ける従来型の観光スタイルが縮小したことや、都市近郊に温浴施設が数多く開発されたことも集客減の原因として挙げられます。

そうした下呂市では、観光協会を中心とした民間主導で宿泊客のデータを月次集計して、客層別に最適な手段で集客するマーケティング分析に取り組んできた結果、温泉街の宿泊客を年間110万人まで取り戻しました。そこでは下呂市観光課が必要なデータや公的支援の諸施策を提供する、官民協働の「下呂市誘致宣伝委員会」が大きな役割を果たしてきました。これに加えて、市内での滞在時間と消費金額の拡大をめざす取り組みを始めています。

平成29年に「下呂市DMO委員会」の中核をなす一般社団法人下呂温泉観光協会が観光庁の日本版DMO法人に認定され、平成30年度には環境省に「下呂市エコツーリズム全体構想」が認可されたことで、観光地としての先進的で盤石な体制が構築されました。下呂温泉の観光客を、豊かな自然や伝統文化の残る周辺地域に誘導し、エコツーリズムによって市内の滞在時間と消費金額を拡大して、観光による経済効果を高めることが狙いです。

 

元来有する魅力に情熱と心血を注いで地域ブランド化

 

周辺地域のエコツーリズムの事例としては、下呂温泉から車で30分の距離にあり、1000メートル級の山々に囲まれた、典型的な山村地域である馬瀬地域(人口1260人)の取り組みをご紹介しましょう。馬瀬地域では平成初期に当時の馬瀬村役場が、竹下政権下における(通称)ふるさと創生事業で温泉を掘り当て、その後に第三セクターの温泉ホテルをオープンすると、それまで年間4万人程度だった観光客が年間30万人規模まで拡大しました。

零細農業や林業中心の産業構造から観光業の雇用中心へと産業構造の転換を図ったのですが、上述の通り観光産業を取り巻く環境の変化のあおりを受け、観光客数や売上は最盛期の3分の1まで落ち込み、ホテル経営は苦境に立たされてしまいました。市議会で議決した民営化に向けて経営改善を進めるにあたり、切り札とされているのは地域住民が望む環境保全型の地域づくりが結実した、官民協働による「日本で最も美しい村」づくりです。

伝統漁法の観光化など優れた自然環境や農林業を観光資源に育て上げ、企画段階から地域おこし協力隊や地元の高校生も活躍し、インバウンド体験ツアーが人気になるなど、新しい観光客層が馬瀬地域を訪れ始めています。

馬瀬地域の取り組みは、平成28年度に農林水産省より「食と農の景勝地(農泊食文化海外発信地域)」の第一号に認定されるなど、元来有する魅力を地域ブランド化した先進事例です。この経緯において、国が推進する諸施策の有効活用を観光課で7年以上に渡って先導し、官民の架け橋となり、下呂市はどうあるべきかについて情熱と心血を注いで考え、従事してきた課長補佐の存在は、特筆すべき理想の職員像として高く評価できます。