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[連載記事]生産性新聞 19.02.05「地方創生の現場から」(4)

2019.02.05

地方創生の現場から(4)

〜岐阜県の事例・経営コンサルタントの視点〜

東海クロスメディア 代表取締役 三輪知生

 

地方公共団体事業のモデルケース

〜恵那くらしビジネスサポートセンター〜

昨年4月から9月まで放送された朝の連続テレビ小説で、主人公の生まれ故郷として描かれた東美濃市のロケ地であった恵那市、特にふくろう商店街として登場した岩村町商店街は放送後も多くの観光客で賑わっています。地元の商店や観光協会では頭を悩ませ番組名にちなんだ数々の「特別な」土産物を開発したのですが、最も話題となり品薄状態にまでなったものは、地元の郷土料理として古くから親しまれている「平凡な」五平餅でした。

恵那市はロケ地であったことを起爆剤として、風光明媚である強みを生かして観光客を呼び込もうと思案しましたが、地元にとって魅力的とは言い難い、あるがままの日常が「よそ者」にとって魅力と映ったのでした。こうした事象に、真の地方創生の実現の難しさの一端が垣間見えます。成功の法則に「よそ者、ばか者、若者」の活躍が大きな役割を担う、といわれる所以もそこにあるのです(地方創生カレッジ「地方創生と事業創造」参照)。

地方創生の目的とは、「地方が成長する活力を取り戻し、人口減少を克服する」(平成26年9月14日まち・ひと・しごと創生本部決定「基本方針」より引用)ことにあり、その実現のために自治体は知恵を絞っています。

「成長する活力を取り戻す」ための特徴的な取り組みとして、恵那市は商工観光部が「産業振興ビジョン検討部会」ならびに「産業振興会議」を立ち上げました。地方公共団体のビジョン策定プロセスでよく耳にするのは、外部(主に首都圏)のコンサルティング会社に発注して計画骨子を入手するというものです。それでは行政が主体的に策定していないだけでなく、現場の実情が反映されていないのではないかという疑念が払拭されません。

地域の担い手がビジョン策定と達成への取り組み検討

 

恵那市では、地域性を良く理解している市職員が基礎的なデータを準備し、次世代を担う若手経営者を構成員の中核とした会議の場で、産業振興ビジョンの策定に取り組んでいます。外部から産業振興や官民連携に専門性が高い有識者をアドバイザーに招き、会議のファシリテーション及び専門的アドバイスに対応しています。地域の担い手が自ら現状分析と課題抽出を行い、ビジョンの策定とその達成のための取り組みを検討するのが特徴です。

このように民意や実態を反映して策定した産業振興ビジョンから中期計画、単年度の事業予算に落とし込むことで、恵那市が直面する課題や実情に直結した問題解決型の産業振興策が実行されます。事業者が意思決定のプロセスに関与していることから当事者意識を持って市の産業振興に取り組む、理想的なモデル事業といえましょう。そして、その実行を側面的に支援する役割を担っているのが「恵那くらしビジネスサポートセンター」です。

「人口減少を克服する」取り組みとして、恵那市は「恵那暮らしサポートセンター」を立ち上げ、移住定住や雇用の促進、空き家情報の公開を進めてきました。その組織に、産業振興ビジョンに基づく事業者支援の実施拠点として、経営改善や雇用対策を進める役割・機能を付加した「恵那くらしビジネスサポートセンター」を平成29年度に立ち上げたのです。専門的な経営相談については、よろず支援拠点と連携して対応にあたっています。

産業振興の観点からは、長らく地元に根ざした商工会/商工会議所などの経済団体だけでは企業の経営課題の多様化、専門化ならびに変化のスピードに対応できなくなっています。地方創生という枠組みでは、取り組むべき領域がさらに広範で複雑多岐に渡り、これまでの連載の通り多くの壁に直面する地方公共団体の職員だけでは対処が困難であり、解決策を導き出す意思決定のプロセスとして恵那市の取り組みは高く評価することができます。