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[連載記事]生産性新聞 18.11.25「地方創生の現場から」(3)

2018.11.25

地方創生の現場から(3)

〜岐阜県の事例・経営コンサルタントの視点〜

東海クロスメディア 代表取締役 三輪知生

 

新たな事業が軌道に乗らない理由

〜突き当たる三つの壁(現実・資金・市場)〜

高品質な製品を生み出すことで国際競争力を誇り、わが国の強みであったモノづくりの現場力が嫌疑を受ける数々の事象が、昨今メディアを賑わせています。製品の機能的な品質は、メイドインジャパンのブランド力を象徴する、信頼獲得の最後の砦です。検査の不正といった事象が数多くのモノづくりの現場で散見される理由には、熾烈な競争に晒されるなかでコストダウン要求が厳しいことや、人員削減が原因になっていると指摘されています。

経営コンサルタントとして製造現場に関わっていると「かつてのようにQCや改善のサークル活動をしなくなった」とよく耳にします。工作機械メーカー出身者である筆者は、高機能・高品質こそが国際競争力の源泉であると長らく信じていました。しかしながら、国内外の家電メーカーの栄枯盛衰を目の当たりにして、競争力を発揮する源泉は他にもあり、それらを有する他国の企業が時代を席巻していく姿に直面して衝撃を受けたのでした。

天然資源や食料物資を輸入に頼るわが国は、付加価値の高い商品やサービスを開発し、海外市場で販売することで外貨を獲得していかなければ、安定的な経済発展を続けていくことは困難です。完成品メーカーが量産工場の多くを海外に移転し、かつては最大の強みであったモノづくりの現場力が減衰せざるを得ない状況に置かれている今日において、新たな価値を生み出すイノベーション創出は、わが国にとって危急の課題といえるでしょう。

こうした厳しい実情を鑑み、国は起業創業への公的支援策を充実させてきましたが、期待した未来予想図通りには推移していないと指摘されています。それは、実現には大きく三つの壁が存在していることによるためです。

競争原理と新陳代謝を大前提とした地方創生を

まず一つ目の壁は、科学的に立証できるのか、本当に実現可能なのか、といった次元の「現実の壁」です。人は夢や理想を実現しようと新たな事業を構想しますが、残念ながら妄想に終わってしまうケースもあります。メディアや大衆だけでなく、専門家や学識経験者ですらも情緒的な判断に流されてしまったり、既存の事業や組織を存続させることを目的として、無理筋の新事業案が公的支援策の募集にエントリーされ採択される事案もあるようです。

二番目の壁は、事業の実現性が一定の確証を得たうえで直面する「資金の壁」です。公的な補助金、助成金は比較的容易に獲得できるよう設計されていますが、対象や用途が限定されます。民間の金融機関は新事業へのデューデリジェンスが困難であること、ベンチャーキャピタルは短期でキャピタルゲインを求める性格であることが、利用者にとって不都合な場合もあります。また、話題のクラウドファンディングは市場が未成熟で機能は限定的です。

三番目の壁は、新たな商品やサービスの販売準備が整ったうえで直面する「市場の壁」です。いくら新規性を誇っても、全く世の中にないものでは認知されず、売ることは困難です。たとえ優位性を誇っても、購入者が許容できる範囲の価格でないと売れません。そして、販売を他者に依存していると、売るのは最も困難となります。作り手自身が情熱をもって販売にあたることで、消費行動を誘発するのが市場の壁を突破する鍵となるのです。

科学的な証明や経済合理性に適合していない、そして市場原理や外部環境の変化に適応していない商品やサービスは、やがて淘汰されるのが自然の摂理です。公的支援の場面において、その原理原則を逸脱してもなお、事業が成功する保証(あるいは補償)はありえません。地方創生を起点として、地域を豊かに人々を元気にしていくためには、競争原理と新陳代謝を大前提として、情熱と心血を注いで事業を軌道に乗せることが求められます。